2005年11月30日
現在最も“高音質”なHDDオーディオプレーヤーとして、7月の発売以来、マニア層を中心に絶大な支持を集めてきたケンウッドの「HD20GA7」。その上位機種が発売された。
 |

デジタルアンプの搭載など、高音質が評価されている「HD20GA7」の上位モデルが「HD30GA9」だ。 |
先週末から店頭に並び始めた「HD30GA9」は、新たに“Media KEG”(メディアケグ)のブランド名を冠し、HDD容量が従来の20GBから30GBに増量された新モデル。さらにMP3やWMAの圧縮時に失われた高域成分を補完して再生する“Supreme”(サプリーム)と、独自の可逆圧縮コーデック“KENWOOD Lossless”(KLS形式)を新たにサポートした。非磁性体ステンレスでできた左右完全対称のシャーシに、振動や共振を効果的に減衰できるという調整穴(fホール)を追加するなど、細かな音質のチューニングも行なわれている。ちなみに、末尾の数字“9”は、クラスを示すもので、従来製品の“7”よりも上位製品であることを示している。
外観や操作性は従来機を踏襲
外観は従来機種とほとんど変わらない。唯一の違いは背面に記された型番と“Supreme”のシルク印刷だ。カラーリングはブラックの1色のみで、HD20GA7で選べたホワイトは選択できない。QVGA(240×320ドット)表示に対応した2.2インチの低温ポリシリコンTFT液晶ディスプレーや、押し込みの深さでメニューの移動速度が2段階に変わる十字ボタン、操作ボタンの隙間が青く光るイルミネーションといった特徴も変わらない。
 |
中央の“SP”の文字がSupremeロゴ。 |
|
 |
本体にもサプリーム(Supreme)の項目が追加された。 |
|
再生可能な形式は新たに追加されたKLS形式(可逆圧縮)のほか、WAV(非圧縮)、MP3(最大320kbps)、WMA(最大192kbps)に対応する。エンコーダーソフトは特に付属しないが、Windows標準添付のWindows Media 10(または9)などフリーのエンコーダーやライブラリーソフトが出回っているので、特に問題はないだろう。転送ソフトはオリジナルの「KENWOOD Media Application」(以下KMA)が付属し、暗号化などの処理を行なう。
KMAをインストールしてあれば、Windows Media PlayerでプレーヤーにWMAやMP3のファイルを転送することもできる。逆に、音楽配信サービスなどから入手した著作権保護付きのWMAファイルは、Windows Media Playerからしか転送できない。なお、マイクロソフトの可逆圧縮形式であるWMA Losslessには対応しない。HD30GA9に転送する際は、192kbps以下のビットレートに再エンコードする必要があるので、注意が必要だ。
 |

十字キーの上下ボタンは浅く押した場合はゆっくり、深く押した場合は速くスクロールできる |
本体の使い勝手もHD20GA7とほぼ同様である。
違いは、本体メニューにSupremeのオン/オフメニューが追加されたことと、転送ソフト(KMA)にパソコンからHD30GA9にWAVファイルを転送する際に、自動的にKENWOOD Lossless(KLS)形式に変換するオプションが追加されたことだ。それ以外は基本的に9月に公開されたHD20GA7用の最新アップデータの内容に即している。
KMAからの転送時にはパソコン内の指定したファイルをHD30GA9にコピーする“転送”と、フォルダー内容を合わせる“同期”の2種類が選べるが、HD20GA7に当初付属していたバージョンでは、同期フォルダーの階層構造が無視されたり、KMAからプレーヤーに転送したファイルを削除できない仕様になっていた。これらの問題点はアップデートで改良されている。後述する曲目情報の扱いなど、iPodシリーズに付属するフリーソフト「iTunes」などと比べてまだ垢抜けない部分があるが、機能面での致命的な不満はほぼ解消された。
音質を落とさずにファイルサイズを小さくするKLS
HD30GA9で新たに対応したKENWOOD Losslessは、非圧縮のWAVファイルに格納された情報をすべて保ちつつ、ファイルサイズを3〜4割程度抑えられる圧縮方式である。圧縮率ではWMAやMP3のほうが高いが、これらの非可逆圧縮では、エンコード時に、大きな音と一緒に鳴っている小さな音や人間の耳に聞こえにくい高域成分などが削ぎ落とされてしまうため、オリジナルと聞き比べると、どうしても音質面で劣ってしまう。
 |
KENWOOD Media Playerに追加された“KENWOOD Lossless”用のオプション。 |
KLSファイルの作成は、KMAを使ってWAVEファイルをHD30GA9に転送する際に自動的に行なわれる仕組みとなっており、使い勝手はシンプル。転送時にKLSへの変換を行なわない設定も選べるが、逆にWAVファイルをあらかじめKLS形式に変換しておいて、一気にHD30GA9にコピーすることはできない。また、WAVファイルにはMP3などと違って楽曲情報を埋め込めないので、KLSのタグ情報はユーザーがあとから手動で入力しなければならない。KMAを使い、HD30GA9に暗号化して保存された楽曲データ(KXD形式)を直接編集して曲情報を追加できるが、自動的に曲情報などを付加できる機能も欲しいところだ。
このあたりはWMAやMP3形式を使えば済む話ではあるのだが、高ビットレートなMP3/WMAファイルでも非圧縮の音源と比べるとハッキリとした音質差を感じる。せっかくの高音質ならソースからこだわりたいという人も多いだろう。この点はぜひ改良してほしいポイントだ。
音質はより落ち着き、ゆったりとした空間を感じる
音質に関しては、標準ヘッドホンのほか、“SHURE”の「E4c」、“AKG”の「K171 Studio」など複数のヘッドホンを使い、ポップスの女性ボーカル、クラシックギターのソロと協奏曲など、何種類かの音源ソースを試した。基本的にはWAV形式を選択したが、音の傾向はWMAやMP3を選択した場合でも変わらない。
 |
付属ヘッドホンも変更なし。標準添付の製品としてはかなり高音質なものだ。 |
|
 |
カナルタイプで“Media KEG”シリーズ用にカスタマイズしたフィルターが付属するという |
|
HD70GA7との比較で、まず感じたのは味付けの違いだ。ずば抜けて高い分解能や個々の楽器をしっかりと聞き分けられる音の純度の高さはHD20GA7と変わりないが、ピンと張り詰めたような中高域の緊張感は多少ソフトになり、HD30GA9はより丸みが出た。全体に落ち着いた雰囲気である。また、歌手のボーカルも心なしか遠い位置から発せられている印象だ。Supremeをオンにすると、ごくわずかだがこの傾向が強くなる印象があった。
HD20GA7では一部高性能なカナル型(耳栓式)ヘッドホンとの組み合わせでホワイトノイズが目立つという指摘があったが、HD30GA9ではその聞こえ具合も和らいだようだ。ただし、無音部分などでは依然としてホワイトノイズを感じるのも確かで、ここにデメリットに感じるユーザーもいるかもしれない。とはいえ、標準添付のヘッドホンやオーバーイヤータイプの製品では、ほとんど感じないレベルであることも付け加えておく。
中高域が前に出るぶん、HD20GA7の音は華やかで、より強い臨場感を感じるが、中域から高域にかけてのつながりはHD30GA9のほうが自然で、感じる空間も広い。例えば、トライアングルのキラキラとした輝き、クラシックギターの弦がこすれる音はHD20GA7のほうがより前に出てきて、金管楽器もよりハリのある音で聞こえるが、HD30GA9では、客席と少し離れた位置にあるオーケストラとの間の少しくすんだ空気感も味わえる。同じリアリティーの表現でも臨場感と雰囲気のどちらを重視するかで好みは分かれそうだ。音質面では甲乙付けがたいところである。
 |

本体はやや大きめだが、なんとかポケットにも収納できるサイズ |
10月に発売された第5世代iPodとの音質比較も行なってみると、iPodはホワイトノイズをほとんど感じず、特に小音量では非常にクリアーな音質という印象。音の滑らかさ(分解能)はわずかにHD30GA9に譲るが、過去に視聴した第3世代の製品で感じた薄さや硬さはだいぶ軽減されており、遜色ないものに感じる。HD30GA9は中高域がソフトになった関係で、キャラクター的にiPodに近づいたというのもある。しかし、iPodには音の緩みを感じさせる部分が多少あり、小音量からフルコーラスが一気に立ち上がるような際には甘さを感じる。ここがデジタルアンプを採用したMedia KEGとアナログアンプのiPodの違いになりそうだ。
HD30GA9は、実売価格5万円前後と30GBクラスのHDDプレーヤーとしては他社より1〜2万円高い設定となる。しかしながら、そのぶん音質にこだわった製品となっており、他社に対する明らかな優位性になっている。ケンウッドには今後もこの路線を捨てず、走り抜いてほしいという期待がある。
なお、今回は視聴できなかったが、HD30GA9と同時にカナル型ヘッドホンの「KH-C701」(想定価格1万5000円前後)の投入も予定されている。HD20GA7とHD30GA9の音質を最大限に引き出すフィルターの採用がうたわれており、こちらも期待できそうだ。
| HD30GA9の主なスペック |
| 製品名 |
HD30GA9 |
| 容量 |
30GB |
| 再生フォーマット |
MP3、WMA(WMA-DRM対応)、WAVE、KLS |
| 対応ビットレート |
MP3:32〜320kbps、WMA:48〜192kbps |
| 連続再生時間 |
最大24時間(64kbpsのWMAファイルまたは128kbpsのMP3ファイルを再生時、Supremeはオフ) |
| 充電時間 |
ACアダプタ:約2.5時間 USB:約5時間 |
| インターフェイス |
USB 1.1/2.0(Hi-Speed対応) |
| サイズ(W×D×H) |
61×17×104mm |
| 重量 |
約140g(バッテリ装着時) |
|
(編集部・小林 久)
|