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ノートPC 裏 技術情報 前編:日本IBM ThinkPad 【特別企画】Notebook開発の汗と涙を密着取材!!
ノートPC 裏 技術情報 前編:日本IBM ThinkPad

アスキー PC Explorerアスキー PC Explorer 2002年7月号
2002年9月14日


技術者の仕事は過酷だ。納期が迫れば徹夜も辞さない。土壇場の仕様変更もある。製品への思い入れがなければ始まらない仕事なのだ。特にノートPCにはサイズや重量の制約があり、性能と品質を両立するための技術的な工夫がデスクトップPCの何倍も要求される。それだけ、設計に関わる技術者の苦悩も多い。ここでは、日本IBMとNECの最新マシンにスポットを当て、ノートPC設計のコンセプトと開発の現場に迫る。

入力デバイスにかけるこだわり

 日本IBMの「ThinkPad」シリーズは、漆黒のボディと赤いTrackPointがトレードマークである。TrackPointはタッチパッドと人気を二分するスティックタイプのポインティングデバイスであり、ThinkPadシリーズに一環して採用されてきた。
 ノートPCを選択する基準は人によってさまざまだ。それは、大きさや重さだったり、デザインだったり、機能の豊富さだったりする。しかし、マシンが長く支持されるためには何よりも「使いやすく」なくてはならない。そして、使いやすさを決める重要なポイントがポインティングデバイスとキーボードという2種類の入力デバイスである。これらは、最も触れる時間が長い部品だけに、マシンの操作感を大きく左右する。IBMは、このTrackPointの使いやすさと、キーボードの打ちやすさに徹底的にこだわってきた数少ないメーカーのひとつである。ThinkPadのキーボードに絶大な信頼を寄せるユーザーも少なくない。

ThinkPad T30
写真1 5月13日に発表された「ThinkPad T30」。Pentium 4-M-1.60GHz/同-1.80GHz搭載のA4ノート。写真をクリックすると発表時のニュース記事に移動します。
 このThinkPadシリーズに従来の伝統を打ち破るマシンが登場した。5月に発売された「ThinkPad T30」シリーズ(ニュース1ニュース2ニュース3)には、ThinkPadのトレードマークであるTrackPointに加え、タッチパッドの装備されている(コラム参照)。市場のニーズに応え、同社としては新しい試みであるポインティンングデバイスのダブル搭載に踏み切った。ただし、TrackPointがあくまでもポインティングデバイスの主役という思想は変わらない。ThinkPad T30は単にTrackPointとタッチパッドを両方が選べる機種ではない。他方をスクロールやアプリ起動など補助的な入力デバイスとして使用する「ウルトラナビ」の機能を採用することで、さらなる使いやすさを追求した製品なのだ。
 まずはThinkPadシリーズの人気を支える入力デバイスの構造と設計する上での思想について解説していくことにする。

ダブル・ポインティングデバイス搭載で実現する新たな伝統
『ThinkPad T30』
 TrackPointはThinkPadの代名詞である。しかし、そんな常識を破る製品が5月に登場した。「ThinkPad T30」である。
 ThinkPad T30はThinkPad 600→T20の流れを汲むA4スリムノートで、CPUにPentium 4-1.8GHzを搭載するなど、同シリーズのフラッグシップ的存在になっている。外見上の一番の特徴は何といってもパームレスト部分に搭載したタッチパッドである。これは主にTrackPointになじめない初心者ユーザーを対象にしたものだが、それだけで終わらないのがIBMらしいところである。
 2つのポインティングデバイスは、
  1. スティックだけを使用
  2. パッドだけを使用
  3. スティックをカーソル移動、パッドを拡張機能として利用
  4. パッドをカーソル移動、スティックを拡張機能に利用
  5. 両方使用する
──という5通りに設定することが可能。この拡張機能は「ウルトラナビ」と名付けられており、TrackPointをメインに使う従来からのThinkPadユーザーでも、パッドのタップやドラッグでWebブラウザの操作を行うなど非常に細かくカスタマイズすることが可能。パッドの機能を有効に利用することができる。

ThinkPad T30
写真a 「ThinkPad T30」本体。
キーボード&ポインティングデバイス部
写真b キーボード&ポインティングデバイス部。
UltraNav Wizard
写真c ポインティングデバイスの選択/設定を行う「UltraNav Wizard」の一部。
TouchPad Properties
写真d タッチパッドのプロパティ画面。
写真a〜d タッチパッドのドライバはSynaptic製で、多機能さでは最高級。さらにポインティングデバイス設定用のウィザードを用意するなど、ソフト面でもかなり使い勝手にこだわった設計だ。



TrackPointの動作原理

TrackPointの動作原理
図1、2 TrackPointの根元には図1のように「ひずみゲージ」が取り付けられている。カーソルを動かすと図2のように台座部分が圧縮/伸長するので、それをひずみゲージを利用して電気信号化する。
 TrackPointのスティック部分はジョイスティックのように倒れるわけではない。力をかけた際にわずかに生じる歪みを検出することでカーソル移動を行っているのである。TrackPoint基本的な仕組みは、図1、2に示したとおりだ。スティックの頭の部分に力をかけることで底部に生じる歪みを、スティックの根本部分にある「ひずみゲージ」で検出する。ひずみゲージはスティックの上下左右4個所に配置されており、それぞれの検出結果を演算することで「移動方向」「移動速度」「停止位置」といったポインタの動きを決定する。
 ひずみゲージとは、その名の通り物体の歪みを電気信号に変換するセンサである。金属(抵抗体)は、外力を与えて伸縮させるとある範囲で抵抗値が増減する。ひずみゲージは薄い絶縁体の上に銅/ニッケルなどの抵抗体を取り付け、その両端から電線を引き出した構造になっている。これを歪みが生じる部分に貼り付け、抵抗値の変化を検出するわけだ。



モジュール
写真2 ThinkPadに実際に取り付けられている、TrackPointのモジュール。実際の部品製造はキーボード製造メーカーが行っている。
 TrackPointの基本原理はこのように単純だが、人間の感覚に合ったカーソル移動を実現するには、歪みを電気信号に置き換えるだけでは不十分だ。例えば、TrackPointのドライバは、ひずみゲージにかかる力が弱まってくると目標位置にポインタが近付いたと判断し、カーソルの移動方向とは逆向きの方向に力を付加している。このような制御を行うことで、オーバーランすることなく目的の位置でポインタが止まり、ポインタを画面のすみに移動しても見失うことがなくなるのだ。もしThinkPadシリーズが手元にあるなら、試しにポインタを画面のすみに勢いよく移動して手を離してみてほしい。ポインタが少し画面の内側に跳ね返ってくるのがわかるはずだ。

 トレードマークの赤いキャップ(※1)も地道な努力の結晶だ。このキャップはゴム製で、当初は表面に凹凸がなく、汗などで滑りやすいと不評だった。そこで考え出されたのが表面にコーティングされた細かな突起、ThinkPadユーザーなら誰もが知っているあの「イボイボ」である。この突起は短い樹脂製の繊維を静電気で立てて植毛(接着)し、何重ものコーティングを重ねて作られたものだ。小さな部品だが、その製造工程は15工程にも渡り、原価も数円と(何銭という単位が当たり前の)この種の部品としてはかなり高価だ。このことからもTrackPointにかけるIBMの情熱が伝わってくる。

※1 赤いキャップ イボイボは「滑らない」をテーマに試行錯誤の上で生まれたものだが、使用しているうちにケバケバ感が落ちるのが今後の課題だという。ちなみにこのキャップはIBMの直販Webサイト「IBM Direct」では一番人気オプションとのこと。価格も3個入りで300円とお手ごろなうえ、送料も無料だ。



TrackPointの利点
タッチパッドの利点

 TrackPointの設置にはある程度の高さが必要(キャップ部分だけでも5mm程度)であるため、薄型化を狙うノートPCでは敬遠される傾向があるが、設置面積が小さく、キーボードのホームポジションに手を置いたままでも操作できるのは、タッチパッドにはない特徴だ。また、ひずみゲージに使用する抵抗体のゲージ率(ひずみに対する抵抗変化率)を上げれば、わずかな歪みでも大きな出力が得られるため、高い分解能を持つ(小さな力にも敏感に反応する)TrackPointを作ることが可能である。TrackPointは少しの力を加えただけでカーソルが動くため、操作に慣れるまでの敷き居が高いものの、一度慣れてしまえば手放せないポインティングデバイスになる。

タッチパッドの原理
図3 静電容量方式のタッチパッドでは、指が近づくことによって生じる電界の歪みを検出して座標を決める。
 一方のタッチパッドは、パッド上に置かれた指の位置を検出し、カーソル移動やクリック/ドラッグといった操作を行っている。その構造は平面上にたくさんのコンデンサが配置されたものと考えると理解しやすい。2枚の金属を、間に絶縁層を挟んで配置して両側に電圧をかけると間に電荷が蓄えられる。この性質を利用したのがコンデンサだ。タッチパッドは図3〜5に示したように、直交する電極で絶縁体を挟みこむ構造となっている。
 ここで、X電極とY電極間に電圧をかけると、XY電極の交点ひとつひとつがコンデンサを形成して、一定の電荷がたまった状態になる。その上に指が近付くと、指も導体(電流を通すもの)なので、XY極の間に生じていた電界が指の方向に一部引きつけられる。つまりX電極と指との間にもうひとつのコンデンサが形成され、指が触れた部分のXY電極間にあった電荷の量が減る。これによって、X電極とY電極それぞれに流れる電流に変化が生じる。電流に変化が生じたX電極とY電極をモニタし、X軸方向の電極とY軸方向の電極が交わる点を見つければ、指がどこに触れたかを決定できる仕組みだ。



タッチパッドの原理
図4、5 XY電極は図4のように絶縁体を挟んで直交した状態で配置されており、電荷の量が減った電極を検出し、指の位置を決定している。
 また、タッチパッドにはドライバの機能でクリックやドラッグなどの操作が実現できるものがあるが、これはタッチパッド上に指が置かれた時間を計測し、一定時間未満ならクリック、押されたまましばらく離れなければカーソル移動といった具合に、信号の変化をソフト的に解釈して特定の操作を実行するようにしている。

 タッチパッドは薄く作ることができるため、厚みの制約がある薄型ノートに搭載しやすい。逆にある程度の設置面積が必要になるので、フットプリントの小さいミニノートには搭載しにくい。指で面をなぞる距離を何倍かに拡大する感覚で使えるので、初心者でも扱いやすく、操作に慣れているユーザーの絶対数が多いのも事実だ。
 ThinkPad T30のタッチパッドは、ある時はなかなかTrackPointに慣れることができない人のためにはメインのポインティングデバイスとして、またある時は、TrackPointをより使いやすくするための補助デバイスとして無駄なく使える入力デバイスと言える。





良いキーボードの三個条

 IBMが考える良いキーボードの条件とはズバリ、

  • 打ち続けても疲れないこと
  • 速く打てること
  • 入力ミスをしにくいこと

──である。
 しかし、この条件を満たすキーボード設計の「秘訣」は存在しない。快適な入力ができるキーボードを作るためには、結局のところ1機種ごとに徹底したキーボードの最適化を行う以外ない。複数のユーザーによる徹底したユーザビリティテストを行い、試行錯誤でキーボードの微調整を行う。そういった泥臭い作業を経て打ち心地のいいキーボードが世に送り出される。

 「最適化する」と書いたが、設計メーカーとしてキーボードに手を入れられるのは、

  1. レイアウト
  2. 寸法
  3. フィーリング

の3点しかない。
 (1)のレイアウトとは文字どおり、キー配列のことである。ThinkPadシリーズでは伝統的にデスクトップ機(OADG配列)を意識した縦7段(7RAW)のキー配列を採用している。これは、ユーザーがデスクトップから簡単に移行できるようにしたためだ。過去の製品では、省スペース化のため縦6段の配列を採用した「ThinkPad 240」のようなモデルも存在したが、後継機種で再び7段配列が復活した。IBMはこの基本的なキー配列を遵守してきた。

 (2)の寸法は「キーピッチ」「キーストローク」「キートップの厚さ」などを指す。キーピッチやストロークに、ある一定以上のサイズが確保されていないといけないのは容易に想像が付くだろう。キートップに関してもそれは同様だ。
 キーボードを薄くする最も安易な方法はキートップを薄くすることだ。しかし、キートップが薄くなりすぎると、キーの間にツメが引っかかりやすくなり、操作性を大きく損なう。これを避けるためには最低でもストロークの70〜80%程度の厚みを確保しないといけない。ThinkPadの場合、ストロークは2.5〜2.8mm。キートップは2.5〜2.6mm程度に設定されている。

 最後のフィーリングとは、キーの打ち心地のことだ。これには適度なタクタイル(クリック感)と打ち続けても疲れない「軽さ」が必要だ。ThinkPadでは、キーの重さをほぼ一定の範囲に設定しているが、こういった客観的な数値とは別に、底面の硬さやキートップがぐらつかない点なども重要である。特に前者は筐体構造や底面の材質などからも変わってくるため、同じキーボードを採用していても同じ打ち心地が保証されるわけではない。

ユニバーサルデザインを意識したキートップの形状
 IBMのキーボードへのこだわりはキータッチだけでなく、キーそれぞれの形状にまで及んでいる。例えば、上下左右のスクロールキーは、手元を見なくてもほかのキーと判別できるよう、上に出っ張った凸形状(カマボコ型)になっている(「スペースバー」「無変換」「変換」などもそうだが、こちらは親指で押しやすくするためだ)。
 しかし、健常者には便利な工夫も、口にスティックを加えてキーを押さないといけない手が不自由な人々には必ずしも歓迎されない。スティックが滑って上手くキーが押せなくなるからだ。そこで、最近の機種ではスティックでもキーが問題なく押せるようにキートップに突起が設けられている(写真e)。このように「ユニバーサルデザイン」を意識した工夫もなされているのだ。
 また、キーボードを外してよく眺めると、底板の手前部分が少しせりあがっているのがわかる(写真f)。PCを使っている最中に飲み物をキーボードにこぼした経験のある人もいるかと思うが、これはそんな失敗に備えるためのものだ。本体を手前に傾けることでこぼした液体を外に流し出すことができる。キーボードの裏面も、なるべく水が基板上に入り込まないように、シールドされている。これはあくまでも応急処置で、本体の故障を100%防止できるわけではないが、非常時に少しでも本体が故障する確率が低くなるように、という配慮なのだ。
カーソルキーの突起
写真e 1997年に登場したA4オールインワンノート「ThinkPad 380」と最新機種の「ThinkPad T30」のカーソルキー。T30のカーソルキーには横方向の突起がある。これは「マウススティック」と呼ばれる棒でキーを押しやすくするための配慮だ。
キーボード内部
写真f 右上のキーが外された部分に注目。最近のThinkPadでは、こぼした液体を簡単に逃がせるように底板の周囲が若干せり上がっている。細かい部分だが、こういったこだわりがThinkPadと他社のノートを分かつ特徴となっている。
スクロールボタン
写真g ブラッシュアップという観点から1つ。「ThinkPad 600」ではスクロールボタン付きのTrackPointが初めて搭載されたが、デザインを優先するため、青い線と周囲の突起が左右ボタンの赤線と同じ長さになっていた。しかし、これでは押しにくいということで、以降の機種では突起部分がボタン全体に広がっている。(青線の長さは変えずデザインの統一を図っている)。
ESCキー
写真h さらに細かい変更点。従来のThinkPadではファンクションキーとESCキーの形状が同一だったが、打ち間違いやすいというユーザーの指摘から、最近のモデルではESCをひと回り大きくし、さらに仕切り線を入れて、打ち間違わないようにしている。
写真e〜h 細部にわたるThinkPadのキーボードへの工夫とこだわり



打ちやすさのカギは
「タクタイル」

 タクタイルとは簡単に言えば、「キーを押したという感触」だ。実はキー入力に慣れた上級者にタクタイルは必要ない。キーを軽くすればするほど入力速度が速くなる。しかし、キーボードに不慣れな初心者にとっては、キーを押した際にまったく抵抗がないと、どこでキーが入力できたかの判別が難しく不安感につながる。
 また、必要以上に強い力でキーのスイッチを押す「底打ち」と呼ばれる状態を、触感によって防ぐ必要もある。すでにスイッチが入っているのにキーを押し続けることは動かない机を無理矢理押すようなものだ。ThinkPadのキーボードの重さは機種を問わず50〜60g程度に設定されているが、指で机をコツコツと叩くとそれだけで200g以上の力になる。底打ちでいかにムダな力がかかるか分かるだろう。

 タクタイルの調整はラバードームの形状の変更で行われる。コラム図6、7は、キーの移動量とラバードームにかかる力の関係を示したグラフだ。キーを押していくと、ある圧力でラバードームが変形し、キーが移動し始める。このキーが動き始める圧力を「初圧」という。初圧がかかりキーが動き始めると、今度は比較的軽い力でキーを動かせるようになる。そして、ラバードームが完全に潰れ、底打ちの状態になることで再び圧力が増える(=強い力をかけてもキーが移動しなくなる)。
 タクタイルの調整は、この「重い」→「軽い」→「重い」という圧力の差を、キーをどこまで押し込んだタイミングで感じさせるかという作業である。初圧を過度に高くすることは疲れの元だが、とにかく小さくすればいいというものでもない。初圧があまりに小さいと、本体を持ち運んだり、ホームポジションに軽く手を添えただけでキーが入ってしまうからだ。

 「キーを押した」と分からせるためには、ある程度初圧を高くし、その後は軽くキーが移動するようにして圧力差を感じさせたほうがいい。初圧の段階が過ぎて、キーが移動し始めると、あるポイントでラバードームが潰れきってキーが押されたと認識される。人間はクリック感を感じると、無意識にブレーキをかけはじめる。
 ラバードームの弾性を利用したキーボードは性質上、常にこの曲線に沿った動きをする。しかし、心地よいフィーリングは常に数値や理論に沿って得られるわけではない。IBMのキーボードが優れている理由は、この難しい問題に対して常に手を抜かずあくまでも真摯な姿勢で取り組んでいることに尽きる。

キーボードの構造とキーボードの力曲線
ラバードームとパンダグラフ
写真i キートップを外して、ラバードームとパンタグラフを露出させたところ。
 キーボードは写真2のようにラバードームとパンタグラフでキートップを支える構造になっている。図6のグラフと図7は、キーを押した際、手に跳ね返ってくる力(グラフの縦軸)とキーの移動量(横軸)の関係を示したものである。
 キーに力を加えると、ある力をかけた段階(グラフ上のA点)で、キーストロークが変化し始める。この変化を開始する時点で加わっている力が「初圧」だ。その後キーに力を加え続けると、B点をピークにして一度圧力が減衰する。このB点は、ラバードームの周囲(肩の部分)が変形し初めるポイントである。そのままさらに力を加え続けると、内側の突起がメンブレンスイッチに接触。キーが押された状態になる。
 このキーが認識されるポイントがC点だ。この時点で、ラバードームはほとんど潰れている。その後もキーを押し続けると底打の状態となり、指にかかる力が急激に上昇する。キーから指を離すと、このグラフのカーブにほぼ近い形で自然にキーの位置が元に戻る。キーボードをタイプする力が強い人ほど、このグラフの右肩があがることになり、それだけ手に余分な力がかかって疲れやすくなるということも、このグラフから読み取れる。

タクタイルのグラフ
図6 キーにかける力とストロークの関係からタクタイルが分かる。
スクロールボタン
図7 キーボードの原理。キートップを押し込むと、パンタグラフとその内側にあるラバートップが押される。ラバートップの中心が押し込まれてメンブレンスイッチの接点が接触し、どの位置のキーが押されたかが分かる、という仕組み
ESCキー
図8 ラバードームの形態が変化する様子を連続して描写したところ。A→Bは圧力が高まっているが、Bを超えた瞬間から指先は急に軽くなり、Cに到達すると反発力を感じる。
図7、8 実際にキーが押される状態を断面で見てみよう



歴代ThinkPadのキーボード
革新によって築かれてきた伝統
 ThinkPadシリーズの原型となった、IBM最初のA4サイズノート「PS/55 note 5523-S」の登場から10年が経過した。以来、ThinkPadはバージョンアップを続け、ノートPCの1大ブランドとしての確固たる地位を築くまでに至った。ThinkPadの魅力のひとつはこの10年間、脈々と受け継がれてきた血統にある。初代ThinkPadと最新のThinkPadを比較したなら、その間に認められる共通点の多さに改めて驚くに違いない。しかし、ThinkPadの流れが1本道であったかというとそうではない。時として周囲を驚かせるような柔軟かつ挑戦的な発想で、PC業界を騒がせたThinkPadが過去に何台も登場した。ここではそんな10年の歴史から育まれたThinkPadのキーボードを並べてみよう。

●ThinkPad 701C
 1995年3月発表
ThinkPad 701C
IBMの名物研究者ジョン・カリダスが設計したキワモノThinkPad。分割収容されるフルサイズキーボード「TrackWrite Keybord」は、キーボードを中央で2つに分け、ヒンジの動きにあわせてキーボードの縦位置を1段ずつシフトさせることで、携帯時にはほぼB5サイズで2.0kgのコンパクトボディ。使用時には19mmピッチを実現。「バタフライ」(蝶)の異名を取った。CPUはDX4-75MHzで、搭載メモリは最大24MB、540MB HDD、VGA表示対応の10.4インチTFT液晶といったスペック構成。後にWindows 95搭載モデルも登場した。


●ThinkPad 760CD
 1995年10月発表
ThinkPad 760CD
A4ノートPCで12.1インチSVGA液晶搭載という、当時としては画期的なスペックを持ったエグゼクティブThinkPad。ThinkPadの700番台は、価格的にも100万円前後をキープするハイエンドラインだった。液晶を開くと同時に自動的に後部が傾斜する「チルト・アップキーボード」を搭載していた。キーボードを跳ね上げ、内部のパーツに簡単にアクセスできる画期的な機構も持っており、これはプリンタ内蔵のThinkPad 550BJのメンテナンス機構で培った技術だという。難点は、たわまないキーボードを作るために重量が重くなる点だった。


●IBM PalmTop PC-110
 1995年9月発表
PalmTop PC-110
これは“ThinkPad”ではない。世界最小のDOS PCという触れ込みで登場したB6サイズ/約600gの超軽量ハンドヘルドPCである。「ウルトラマンPC」の異名を取った本機は、キーボードの左右上部に「ポインティングヘッド」と名付けられたポインティングデバイスを装備する。これは最近ブームとなったVAIO Uへの影響も感じられる部分だ。
PalmTop PC-110
本体はアルマイト製の頑強なボディで、640×480ドット/256色表示対応のDSTNカラー液晶を搭載。カラーのThinkPadのみに許された赤緑青のIBMロゴの使用を特別に許可された製品でもある。
“ウルトラマンPC”こと「PalmTop PC-110」


●ThinkPad i Series s30
 2001年5月発表
ThinkPad i Series s30
最近のThinkPadで注目を集めたキーボードと言えばこれ。ジャストB5サイズのカテゴリに属すモデルでありながら、キーボードを左右にわざわざはみ出して搭載し、半ば強引(!)に、ISOの基準で言うところのフルサイズ(キーピッチ18.25mm)を実現。キーボードとともに張り出した液晶部分に無線LAN接続用のダイバシティアンテナを搭載するというおまけつきだ。それ以外にもまさに「ピアノ」という漆黒のクリア塗装、超低電圧版Mobile PentiumIII-600MHz搭載で最大10時間の連続駆動が可能といった野心的なスペック。バッテリを利用したチルト機構なども備えていた。


●現在のキーボード
 2002年5月発表
現在のキーボード
 写真は「ThinkPad T30」のもの。青色のEnterキーを搭載するのはここ1年程の特徴。カーソルキーの形状や、ESCボタンの位置、競りあがった周辺部など、本文中で述べた基本的なポイントがここにも反映されている。ThinkPadのキーボードを語る上で外せないのが、操作を機種を問わずなるべく共通で行えるようにしている点だ。
 その最たるものが左上に用意されたThinkPadボタン。どの車のアクセルも右、ブレーキが左であるのと同じように、現在販売されているThinkPadのどのライン(A/T/R/X)にもこのThinkPadボタンが用意され、マシンの基本設定やヘルプメニューの参照が可能となっている。
 ThinkPadのキーボードになくてはならないものとして「キーボードライト」がある。このキーボードライトは暗所でもワンタッチでオン/オフができるように、左下の「Fn」ボタンと右上の「PgUp」ボタンのコンビネーションという対角線を守ることが決まっている。また「Fn」と「ファンクションキー」で実現される「液晶オフ」「スタンバイ」「モニタ切替」「休止状態」のショートカットも共通。一度ThinkPadを使ったユーザーなら最新機種にも自然に入っていけるそんな仕掛けが用意されている。

「ThinkPadシリーズ」レビューインデックス

ThinkPad X23(2662-EFJ)
最良モバイルノートにBluetooth搭載モデルを追加「ThinkPad X23(2662-EFJ)」
ThinkPad X22(2662-9DJ)
メモリ最大640MBまで増設可能なパワフルB5ノート「ThinkPad X22(2662-9DJ)」
ThinkPad A30p(2653-66J)
あらゆる機能を搭載した ThinkPadの新フラグシップ「ThinkPad A30p(2653-66J)」
ThinkPad i Series 1800(2655-P3J)
質実剛健なA4ノート「ThinkPad i Series 1800(2655-P3J)」
ThinkPad i Series 1620(2662-3F7)
黒くなって魅力倍増した定番モバイル「ThinkPad i Series 1620(2662-3F7)」
ThinkPad i Series s30(2639-43J)
IBMから“攻めのサブノート”が登場!「ThinkPad i Series s30(2639-43J)」
ThinkPad i Series 1800(2632-IAJ)
i Series最上位機種がバージョンアップ「ThinkPad i Series 1800(2632-IAJ)」
ThinkPad i Series 1620(2662-33J)
本格派モバイルノートがUSB接続CD-ROMドライブを標準装備してリニューアル「ThinkPad i Series 1620(2662-33J)」
ThinkPad i Series 1124(2609-93J)
超低電圧版Mobile PentiumIIIをさっそく搭載したスタミナThinkPad「ThinkPad i Series 1124(2609-93J)」
ThinkPad T21(2647-9AJ)
王道を受け継ぐハイエンドノートブック「ThinkPad T21(2647-9AJ)」
ThinkPad i Series 1800(2632-I1J)
CD-RWドライブを搭載したオールインワンi Series「ThinkPad i Series 1800(2632-I1J)」

(田中 裕子)




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