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開発者に聞くThinkPad X60シリーズの真実 【INTERVIEW】ThinkPad X60シリーズに見る、変わるものと変わらないもの
開発者に聞くThinkPad X60シリーズの真実
レノボ ジャパン
http://www.lenovo.com/jp/ja/

2006年3月30日

米インテル(Intel)社が今年1月に発表し、各社ノートパソコンへの搭載が進んでいるデュアルコアプロセッサー“Intel Core Duo”。その搭載機として、2006年2月時点で最小・最軽量と発表されたのが「ThinkPad X60/X60s」だ。“ThinkPad X40”シリーズをベースとしたB5サブノートで、ともに12.1インチの液晶ディスプレーを搭載した1スピンドルノートとなる。

ThinkPad X60
ThinkPad X60の発表会場での写真。製品を手にしているのは商品企画担当の木村氏

 開発元のレノボ・ジャパン(株)では60番台の型番を冠したマシンを“第3世代のThinkPad”と銘打ち、2000年以来の大きなラインナップ変更と位置付けている。その概要は既出の発表会記事でも触れられているが、取締役副社長で研究・開発担当の内藤在正(ないとう ありまさ)氏は「高速性を徹底追求した新しいアーキテクチャー」をアピールポイントとして掲げている。

 従来のThinkPadはワールドワイドで安定した製品供給体制を維持できる点を重視したスペック選択が行なわれてきたが、ThinkPad X60シリーズには、ほぼ同等の本体サイズで外観も共通であるのに関わらず、重量が約300g軽量な「ThinkPad X60s」も投入されている。これは、より軽量なマシンが欲しいという日本国内のニーズをくみ取る形で誕生したマシンである。機構設計を担当した品質開発・製品保証・機構設計主任の加藤勝利(かとう かつとし)氏は、このことを「これまでにない新たな取り組み」と語る。

 編集部では、レノボの開発陣が居を構える大和事業所を取材。開発者自身の口から、ThinkPad X60/X60sのコンセプトと開発の苦労について聞く機会を得た。

取材に対応いただいた開発陣
取材に対応いただいたレノボの開発陣
月刊アスキーも
月刊アスキー「デジタルプロダクツ分解〜開発者の魂を識る」
この記事は、ASCII24と月刊アスキーが合同で取材したものです。ThinkPad X60/X60sの内部カットなどを含めた詳細なインタビュー記事は、2006年3月18日発売の月刊アスキー4月号の「デジタルプロダクツ分解〜開発者の魂を識る」でご覧いただけます。



 機構設計の加藤氏は、2004年の秋からThinkPad X60シリーズの開発に取り組んできたが、「世界最小を目指して開発された「ThinkPad X40」のボディーに、より高密度でチップサイズの大きなデュアルコアのCPUや対応チップセットを収納するためには、今まで以上にシビアな強度アップの仕組みを取り入れる必要があった」と語る。ThinkPad X60では、X40と同一サイズの本体にデュアルコアのCPUを搭載したほか、2.5インチHDDのサポートなど、X40以上の拡張性も確保している。

内部カット
内部カット
液晶フレーム
X60sでは、液晶パネルを軽くするために用いられたフレームなしの液晶が用いられた(右)。左はX60のもの
撮影:小林 伸

 ThinkPad X60/60sの発表会では、基板の面積を25%削減し、そのスペースに大型ファンを導入。冷却性能を1.4〜2.4倍に向上させたこと、基板の固定位置を最適化し、ハンダ付けされたチップへのストレスを減らす“Hover構造”を採用したことなどが紹介された。また、HDDのコネクターを伝わる衝撃を軽減するために、Tシリーズと同じフローティング構造も採用した。

 発表会では積極的にアピールされなかったことだが、サイズとフォルムを保ちつつ、より軽量化を行なうために「液晶パネル自体を軽くする」というアイデアも採用したと加藤氏は語る。X60sとX60のディスプレーは共通の液晶カバーを使用しているので、一見すると同じ液晶ディスプレーのようだが、より軽量なX60sでは、同じ液晶パネルでフレームのない“軽量化LCD”を採用。約70gの軽量化を実現したという。

[加藤] 技術的なチャレンジとしては、今回フレームがないものと、あるものを設計段階で工夫して、共通のカバーに載せられるようにしました。(2種類の型を用意することによる)投資を増やさない工夫をすることで、日本のお客さんに向けた、より軽いモデルをコストを上げずに作れるようになった。X60sは日本の強い要求から生まれたモデルと言えます。

加藤氏
機構設計の加藤氏
田保氏
製品開発統括担当の田保氏

 製品開発研究所企画・開発推進 製品開発統括担当の田保光雄(たぼ みつお)氏は「設計コンセプトとして、軽く小さくは狙っているんだけれども、機能を落としてまで軽くしようとは考えなかった」と言う。「大きくすることでと軽くできる場合もある」が、サイズと重量のバランスを取るため「敢えてそれも行なわなかった」と田保氏は語る。

[田保] 例えば、LCDはスペースを取れればもっと軽い材料を使える可能性が出てきます。ただし、そのぶん本体は厚くなってしまう。大きくはしたくなかったのです。X40と同じサイズで、軽く、標準電圧のCPUと2.5インチのHDDをサポートすること、これが最大の目標でした。

[加藤] ThinkPad X60/60sでは、0.7mm厚のマグネシウム合金を利用していますが、他社はより薄い0.6mm厚を採用しています。例えば、強度を維持するためにボンネット構造にすることもできるんですが、カバンへの出し入れを容易にしたり、従来からあるThinkPadのデザインを保つといった観点でデザイナーが許してくれなかった……。

 X60とX60sは共通サイズで、ともに12.1インチのTFT液晶パネルを装備している。ただし、X60sでは上述のパネルの相違に加え、より軽量な冷却機構を採用したため、50g程度の差が出る。また、標準の“4セル拡張容量バッテリー”(約4.5時間)に加え、装着時にX40/X41シリーズと同サイズになる“4セル・スリム・ラインバッテリー”(約3.5時間)の使用も可能。さらにHDDを1.8インチとすることで、ThinkPad Xシリーズでは史上最軽量の約1.16kgの重量を達成できたという。

 製品企画を担当したThinkPadマーケティング プロダクトマネージャーの木村香織氏は「ThinkPad X60とX60sの売り上げはほぼ半々」と話す。木村氏の説明では、日本で販売されているモデルではすべての機種で軽量フレームを採用しているが、ほかの国では軽量化されていないTFTパネルを搭載しているケースもあるという。もうひとつ日本ユニークな部分としては1.8インチHDDのモデルを用意した点で、これは日本専用で、海外では販売していないモデルになるそうだ。

 こういった特定地域をターゲットにした製品開発は、日本アイ・ビー・エム(株)の時代にはあまり行なわれてこなかった部分で、レノボに移って変化してきた部分のひとつになるという。

[加藤] 今回の製品では開発者冥利につきるというか、環境が大きく変わったなと感じています。これまで軽量化LCDのようなパーツは、(全世界向けに部品供給ができないという理由などで)使わせてもらえませんでした。最初は「無理だろう」という話でしたが、液晶フレームのパーツを共通化することで、低い設備投資で、2つのラインを製品化することに成功したんです。



平野氏
研究・開発デザイン主任デザイナーの平野氏

 第3世代を標榜したThinkPad X60シリーズだが、外見は従来のThinkPadと大きくは変わってはいない。つや消しブラックの本体と、キーボードの中央に設けられた赤いトラックポイント。フラットな天面……。これらは、1993年に発表された「ThinkPad 700C」以来、終始一貫したThinkPadのブランド・アイデンティティーである。

 このThinkPadのデザインに、ある人はそこに伝統と安心感を見出し、ある人は代わり映えしない保守的なマシンという感想を持つ。いずれにしても変化の早いパソコン業界で10年以上、同じデザインを保ち続けたマシンというのは例がない。

 「変えないことには勇気がいる」と語るのは、ThinkPad X60シリーズのデザインを手がけた、研究・開発デザイン主任デザイナーの平野浩樹(ひらの ひろき)氏である。「ThinkPad 600に魅せられて日本アイ・ビー・エムの門を叩いた」と言う平野氏は、ビジネススーツのデザインに例えながら、ThinkPadのデザインを説明する。ビジネススーツは何十年に渡って変わらないスタイルに、時代を反映した細かなアクセントが散りばめられている。

 ThinkPadのブラック筐体は、1992年に発表された初代「ThinkPad 700C」(国内では「PS/55note C52 486SLC」)から採用され続けている。途中いくつかの例外もあったが、ThinkPadの黒と赤は伝統としてユーザーに認知され、ThinkPadのブランドイメージと密接に連携してきた。“変わらないThinkPadのデザイン”は、一方で保守的という印象も与えるが、それが強固なブランドイメージと信頼感の源にもなっている。

 国内メーカーの製品では、見た目の奇抜さだけで売る製品も存在し、同一シリーズでも1〜2年も立つと、従来とは180度異なる色や形状を採用してしまう場合がある。変化を求めるがために、自身の姿を見失いがちなパソコンメーカーも少なくない。そんな中、ThinkPadは「敢えて変えない」「変える必要もない」という信念のもと、他社のマシンにはない、強固なブランドイメージをユーザーに定着させた。変わらないものはデザインだけではない。



キーボード
X60シリーズのキーボード。Windowsキーが追加されている。撮影:小林 伸

 例えば、ThinkPadに搭載されているキーボードは、縦に7段のキーを配置した配列を伝統的に採用している。デスクトップと同じ配列にすることで、ユーザーの使いやすさを確保することを念頭に置いているためだ。X60シリーズでは、Windowsキーの追加などキーボードレイアウトの変更が行なわれたが、Fnキーとのコンビネーションで操作する各種機能の配置もシリーズ間でブレさせず、従来機種からの乗り換えユーザーがとまどいを感じないようにしている。また、第3世代では変更されてしまったが、ACアダプターなどの共通化も図られており、買い換えユーザーが既存の資産を生かしつつ、違和感なく新機種に乗り換えられるような配慮もある。こういった継続性への配慮は他社製品ではしばしば忘れられてしまうことだ。

 第3世代のThinkPadでは、型番もフォームファクターを示す英数字に世代を示す2桁の数字とし、2000年以降用いられていたXシリーズ、Tシリーズなどのラインとの継続感も維持するようにしている。

 賞賛と驚きをもって迎えられた新製品も、発売後1週間もすれば熱気は冷め、ひと月で関心の外に置かれ、3ヵ月もすれば新製品にリプレースされる。そして、1年も経たずに過去の製品となる。国内で1年間にリリースされるパソコンの新製品は200モデルを下らないと思うが、そのうち長くユーザーの記憶に残る製品は何台あるだろうか?

 「進化の価値」を否定するつもりはさらさらないが、同時に目新しさだけで売る新製品が“古くなる”速度もまた速い。あっという間に陳腐化し、早々のうちに“新製品”にとって代わられることになる。数年前の製品を使うことが、なんだか格好悪く思えることも少なくない。パソコン業界の一隅に身を置いて、毎日のように配信されてくる新製品の情報に目を通していると、ときとして虚しさを感じることがある。

 ThinkPadブランドの魅力は、変わらないことによって旧機種の価値も維持される点にあるのではないだろうか。変わらないのは優れているため。優れているものだから、また使いたくなる。そんな気持ちを抱かせるThinkPadの伝統は開発陣がIBMからレノボへと移っても変わらず継続されている。

(編集部・小林 久)




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