2006年5月11日
オンキヨーから同社初のパソコン「HDC-7」が発売された。米インテル社が提唱する“Viivプラットフォーム”に対応したAVパソコンで、OSにはWindows XP Media Center Edition 2005(以下Windows MCE)を搭載。リビングに違和感なく設置できるデザインと、離れた場所からリモコンで操作するための“10フィートGUI”による家電機器と親和性の高い操作感が特徴となっている。
 |
オンキヨーのAVアンプ「TX-SA803」と並べたところ。非常に調和したデザイン。なお、国内モデルはシャンパンゴールドだが、北米仕様ではブラック。「要望があれば、シルバーなど他色の開発も積極的に対応していきたい」という。なお、写真では撮影のために重ね置きしているが、放熱の問題もあり、実際に設置する際には重ね置きしないほうがいいだろう。 |
パソコンとAV機器の融合は次のフェーズに入ったか?
パソコンとAV機器の融合をテーマとした製品の歴史は意外に古く、国産機では1982年に発表されたシャープの“X1”シリーズ当たりにまで逆上れるのではないかと思う。もっともそれが現実的に“使えるもの”となり始めたのはごく最近のことだ。
現在のパソコンにはテレビ録画機能など、AV機器的な側面があたり前のように搭載されているが、リモコンだけで完結できるシンプルな操作性や、リビングと完璧に調和する外観を持つパソコンはいまだ登場していない。そういう意味で融合は発展途上の段階にあると言えるだろう。
オンキヨーの「HDC-7」は、今年1月の“2006 International CES”で参考展示され、5月25日の発売が予定されているリビングルーム向けパソコン。テレビ機能も持つ製品だが、筆者はいわゆる“テレパソ”とは少々毛色の異なる製品だととらえている。映像よりは音楽の部分により重点を置いた製品に見えるからだ。同時に“AV機器とパソコンの融合”に質が問われる時代が来たことも感じた。利便性やスペックはもちろんだが、音質や仕上げも重要な要素になったのではないだろうか。
 |
背面端子。オーディオ関係では、HD Audio対応の7.1chアナログ出力と、VLSC対応の2ch出力に注目。 |
HDC-7はテレビ視聴も可能だが、25万円という高価な価格設定にも関わらずデジタルチューナーは搭載していない。一方で、音質や筐体の質感には並々ならぬ開発者のこだわりを感じさせる。
本体には、同社のアナログ出力にこだわったサウンドカード「SE-150PCI」をベースにカスタマイズされた専用のサウンドカードを搭載。同軸と光角型のデジタル出力端子、および2系統のアナログ出力を装備している。うちアナログ1系統は7.1ch出力で、インテルが提唱する“HD Audio”に準拠する。アナログのもう1系統は2ch出力で、オンキヨー独自のVLSC(Vector Linear Shaping Circurity)回路を経由する。VLSCはD/A変換時にパルス性ノイズを除去し、よりピュアなアナログ出力を可能とする技術だ。
 |

冷却ファン。底面から吸気してエアフローでシステム全体を冷却する仕組み。 |
筐体にも音響メーカーならではのノウハウが凝縮されている。冷却ファンにフローティング構造を採用し、共振に強いシャーシーとしたほか、防振材や制震テープを利用して、冷却ファンやドライブ類の振動が音声や映像信号に悪影響を与えないよう配慮している。
静粛性も高く、騒音レベルはDVD再生時で25dBと、パソコンとしてはかなり低いレベルに抑えられている。アルミ合金製の高品位な外観もAV機器そのもので、安っぽさを感じる若干興ざめな“Viiv”ロゴのシールがなければ、パソコンであるとは気付かないほどだ。
 |
ドライブには制震テープが貼られ、共振を抑制している。ちょっとした部分にもノウハウがあるようなので、下手にいじらないほうがいいだろう。 |
|
 |
マザーボードはインテル製の「D945GSU」。メモリースロットは空いているが、拡張スロットは埋まっている。とりたてて内部にアクセスする必要もない。 |
|
意外!? というほど、リビングに調和するパソコン
HDC-7は、OSにWindows MCEを搭載しているため、10フィートGUIが利用できる。本体にはマイクロソフトの赤外線キーボード(ポインティングデバイス付き)とリモコンが付属するが、赤外線キーボードは反応が遅いため、快適に使えるとは言い難い。リモコン以外の操作を行なうなら、別途キーボードとマウスを用意した方がいいだろう。
 |
本体に付属するキーボードとリモコン。 |
10フィートGUIはASCII24の読者にもいまやおなじみのものだが、HDC-7ではFMラジオ受信用の“ラジオ”とDVD Audio再生用の“DVD Audio”というメニューが追加されている点が目に付く。ともに標準で搭載するパソコンは珍しい。
ラジオは、受信チャンネルの設定なども10フィートGUI上で行なう形になる。一方、DVD Audioはプリインストールされている「PowerDVD 6」を起動して、再生する。DVD Audioは、CDを上回る情報量(192kHz/24bit)と最大6chのマルチチャンネル再生に対応した次世代の音楽用フォーマットである。PowerDVD 6の細かな操作はリモコンだけでは難しく、やや残念だが、初回起動時に設定を済ませてしまえば、2回目以降は、10フィートGUIからダイレクトに再生を始められるようになるので、特に問題はないだろう。
|
|
Windows MCEの10フィートGUI(左)。FMラジオ受信用の画面も追加されている(右)。 |
HDC-7はHDMI端子こそ持たないが、D4端子、DVI-D端子、アナログRGB(D-Sub 15ピン)、S-Video出力など豊富な映像出力を装備している。パソコン用のディスプレーだけではなく、家庭用テレビやプロジェクターなどにも接続が可能だ。
音声に関しては、本機に直接スピーカーを接続することはできず、アンプの追加が必要になる。本体にはヘッドホン端子などもない。このあたりは割り切った仕様である。本機の音質を生かすにはある程度のクラスのアンプが必要になるので、中途半端な機能は持たせないというコンセプトなのだろう。HDC-7の発表直後に、HDC-7との連携も視野に入れたエントリーAVアンプ「TX-SA504」(5万400円)が発表されたが、オンキヨーの説明では、音質的に、それより上位の中級機「TX-SA803」(15万7500円)と組み合わせても十分釣り合うものだという。
 |
端子部分のつくりはややもろさを感じるが、背面もパソコンを感じさせないものになっている。金メッキを施された電源ケーブルなど、付属するケーブル類も豪華だ。 |
音声出力はデジタルとアナログが選べるが、アナログ波形処理技術のVLSCが使えるのは専用の2ch出力のみとなる。ステレオ再生がメインの場合はこちらを利用するといい。一方、7.1ch出力は“ドルビーマスタースタジオ”に対応しており、ドルビーデジタルのマルチチャンネル再生のほか、2chのヘッドホンで仮想的にマルチチャンネル再生を実現する“ドルビーヘッドホン”、2chのソースをマルチチャンネル化する“ドルビープロロジックIIx”なども利用できる。なお、DTS再生を行ないたい場合には、光または同軸ケーブルでDTSに対応したAVアンプとデジタル接続する必要がある。
ビデオデッキよりも静かな動作音
リビングに設置した場合に気になるのは静粛性だろう。実際に試用してみた感想としては、通常使用ではほとんど騒音を感じない。一般的なVHSデッキやDVDレコーダーと比較しても、かなり静かな印象で、AV機器に匹敵する静粛性と言えるだろう。これは、Pentium Dを搭載した製品とは思えない水準だ。もっとも、起動時は冷却ファンからかなり大きな音がする。また、CPUをフル活用したり、記録型DVDにデータを保存する際は相応の動作音がする。
 |
試作機に搭載されていた光学式ドライブは、松下製のDVDスーパーマルチドライブ「SW-9587S」。 |
10フィートGUIを使った操作感に関しては、かなり快適である。これはデジタル放送の試聴にこだわらなかった点が、逆に良かったと言える。Windows MCEはデジタルチューナーに対応していないため、デジタル放送を受信するためには、ハードメーカーが用意した外部アプリケーションを別途起動させないといけないが、インターフェースが統一されていないため、どうしても使いにくい面が生じてくる。標準機能中心に絞り込んだことで、そういったインターフェースの不整合はあまり感じなかった。
|
|
Windows MCEで視聴できるコンテンツの例。画面左のメディアオンラインでは無料コンテンツも意外に多い。また、Viiv対応機専用のコンテンツも提供されている。画面右がViivマシン用にオンキヨーが提供している音楽配信サービス“e-onkyo music store”。 |
|
|
画面左の“ショップチャンネル”のように取り扱い商品の商材情報をウェブで確認できるサービスもある。画面右のOricon Styleなど、楽曲購入のためにソフトのインストールが必要なサービスもあるが、リモコンだけでも総じて使いやすい。 |
特に印象的だったのが、メディアオンラインを利用してネットワーク上のコンテンツをきわめて自然に購入/視聴できた点だ。シンプルなメニューとサムネイル表示されたコンテンツをリモコンで選択していくだけで動画や音楽のコンテンツを気軽に再生できる。“Gyao”や“BANDICHANNEL”には、無料で視聴できる映像コンテンツも多い。もちろんURL入力などは不要だし、細かなマウス操作も必要としない。操作感は、パソコンで見ているというより、HDDレコーダーに保存した番組をリモコンだけで見ている感覚に近い。
オンキヨーはViiv対応パソコン向けに24bit/96kHz、WMA Lossless形式の音楽配信サービス“e-onkyo music store”を提供しているが、楽曲購入もリモコンだけで容易に行なえた。ラインナップはそれほど多くないが、音質の高さと手軽さは魅力的である。
今回手持ちのAVアンプ「PS8500」(日本マランツ製)に、アナログ接続して音楽を楽しんでみたところ、音質は単品のCDプレーヤーに迫るものだと感じた。筆者所有のSACDプレーヤー「SA-17S1」と比較すると、高域の広がりやS/N感などで一歩譲る印象があったのは確かだが、それよりワンランク下の製品(定価5万円以上のCDプレーヤー)とはいい勝負になるのではないかという感想を持った。
ベースとしたサウンドカード(SE-150PCI)は、自作市場でもともと評価の高い製品であるが、本機ではそれをカスタムチューニングしたことでさらに高い品質を得たと言える。静粛性も含めて、少なくとも一般的なAVパソコンの水準は大きく超えている。さまざまな形式のデータに対応できる点や、一度パソコンに保存してしまえば、リモコン操作だけで、メディアの入れ替えもなく、さまざまな曲を楽しめる点はパソコンならではの利点だ。
 |
フロントパネルの右側には、時刻や再生時間を表示するためのパネルを装備。その下には選曲用のボタンもある。 |
ただ、純粋なプレーヤーとしての操作感に関しては、オーディオ機器と勝手が違ってとまどう面もあった。例えば、トレーにCDやDVDをセットし、フロントパネルにある再生ボタンや選曲ボタンを押しても、すぐに再生できるわけではない。10フィートGUIから再生するメニューで該当する項目――CDであれば、マイミュージックの中にあるCDアイコン――を指定した上でないと、再生/選曲操作は行なえない。また、レジュームの仕組みももうひと工夫必要だろう。Viivのクイック・レジュームは基本的に画面と音が消えるだけなので、消費電力が気になるし、かといってサスペンドしてしまうと復帰に失敗して再起動を余儀なくされるというケースもままある。こういったときには「うまく隠蔽されてはいるが、やはりパソコンなのだな」と感じてしまう。
 |
フロント部分のカバーを開けるとメモリーカードスロットやUSB 2.0/IEEE 1394ポートが現われる。 |
なお、Viivの仕様にはDLNA対応が含まれているほか、HDC-7はオンキヨー独自のAVサーバー用プロトコル“Net-Tune”のサーバーにもなる。このため、家庭内LAN上にあるDLNA対応のAV機器と連携したり、Net-TuneクライアントをインストールしたパソコンからHDC-7上のコンテンツにアクセスすることが可能だ。サーバー用途を考えるとGigabit Ethernet、ケーブルなしの利便性を考えると無線LANの搭載も望みたいところだが、本機は10/100BASE-TX端子のみを装備している。
パソコンだが、パソコンとして使いたくない!?
AV機器のような見た目めの筐体を採用したパソコンは、これまでも各種登場している。中には、シャープが販売している「AVセンターパソコン“Mebius”」のようなビデオデッキを思わせる外観の製品や、少し古いがソーテックがケンウッドと協業して作った、ミニコンポに接続できるパソコン「AFiNA AV」などがあったが、操作感や設置した雰囲気まで含めて、ここまでAVとうまく調和したパソコンはなかったように思える。むしろ、Windows XPのデスクトップを表示して、本機をパソコンとして使うことに違和感を感じてしまうほどだ。
 |

AVラックに収めても違和感はない。ただし動作中は若干揺れがあるので、しっかりとしたものを選択した方が良さそうだ。 |
音質に限って言えば、光出力を持つパソコンを購入し、高性能なD/Aコンバーターに接続する方法もある。また、iTunes上での再生に限られるが、アップルコンピュータの「AirTunes」のように、別室にあるパソコンから無線で音楽を飛ばして、光出力する周辺機器も市場に出回っている。ドルビー関連やDTS関連を含めた対応するコーデックの豊富さ、音質に対する配慮はパソコンとしては特筆すべきものだが、デジタル接続中心で使用するなら、それほど大きな優位性は持たないかもしれない。ディスプレーなしで25万円という価格は、低価格化が進むデスクトップ製品のなかではかなり高価な部類に属する。
しかし、高品位で静粛性の高い筐体は他社製品にはない本機ならではの特徴であり、そこに価値を見出す層は確実に存在するだろう。万人向けの製品ではないが、リビングに違和感なく置けるパソコンで、リモコンだけでネットワーク上のコンテンツを気軽に購入したり、自分で用意したコンテンツを楽しみたいと考えるユーザーにとって、本機は魅力的な選択肢になると思う。
HDC-7を開発した理由としてオンキヨーは、「次々と登場する著作権保護技術(DRM)や最新のフォーマットに柔軟に対応していくためには、パソコンの汎用性が必要だった」と説明している。ネットワークを通じてさまざまなデジタルコンテンツがやり取りされ、その格納先も光メディアからHDDが主流となりつつある中、こうした新技術に柔軟できるプレーヤーは何かを考えたところ、パソコンに行き着いたということだろう。同社はHDD内蔵型の据え置き型プレーヤーや、AVサーバーと連動できるオーディオ機器などを過去に製品化しているが、使い勝手の面ではパソコンに一歩譲る部分があった。
HDC-7は、そういう新しいフェーズの融合に先鞭を付けた“AVパソコン”と言えるだろう。
| HDC-7の主なスペック |
| 製品名 |
HDC-7 |
| CPU |
Pentium D 820-2.8GHz |
| OS |
Windows XP Media Center Edition 2005 |
| メモリ |
DDR2 SDRAM 1GB |
| チップセット |
Intel 945G Express |
| ビデオ |
チップセット内蔵(Intel 945G Express) |
| HDD |
約400GB |
| 光学ドライブ |
DVD+R DL(2層式メディア)対応DVDスーパーマルチドライブ |
| チューナー |
地上アナログ×2、FMチューナー |
| 拡張スロット |
CFカード×1、SDメモリーカード/メモリースティック対応×1、SmartMedia×1 |
| 通信 |
10/100BASE-TX |
| I/O |
USB 2.0×4、IEEE 1394×3(4ピン×1、6ピン×2)、ビデオ入力(S-Video、コンポジット)、外部ディスプレー出力(D4、DVI-D、S-Video、ミニD-Sub 15ピン)、オーディオ入出力(光デジタル出力含む)など |
| サイズ |
435(W)×413(D)×116(H)mm |
| 重量 |
約9.8kg |
|
(編集部・小林 久)
|