2005年7月20日
ソニー(株)が2004年5月にスタートした“VAIO 第二章”の中で、唯一それ以前から2005年春モデルまで継続されていたのが、液晶ディスプレーと本体が別々になったセパレート型デスクトップパソコン“type HX”シリーズだった。そのセパレート型が今年夏モデルでいよいよフルモデルチェンジされ、新しい“VAIO type H”シリーズとなって登場した。まったく新しい筐体に最新のコンポーネントを盛り込み、さらに非接触型ICカード“FeliCa”の読み書きを行なえる“FeliCaポート”のような新しいギミックも取り込んだ、注目の製品だ。そこで今回は特別企画として、このtype Hシリーズの企画・開発担当者にインタビューを行ない、合わせてtype H本体を分解して、その内部構造について明らかにしてみた。
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高橋映里子:type H商品企画担当。VAIO事業部門 企画部 4課 プロダクトプロデューサー |
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田吉建二:全体リーダー。VAIO事業部門 7部 4課 |
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内山義教:type Hハードウェア設計リーダー。VAIO事業部門 6部 1課 |
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中村裕二:機構設計リーダー。VAIO事業部門 5部 2課 |
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インタビューに参加いただいた開発者の方々 敬称略 |
[ASCII24] まずはtype Hの開発コンセプトからお聞かせ願えますか。以前のtype HXと比べてフォームファクターも変わりましたし、中のコンポーネントもかなり変わっていると思いますが、type HXからどういう点を変えていこうと思い、あるいは変える必要があったのでしょうか。
[高橋] まずデザインを含めた最初の商品企画コンセプトの詰め方から申しますと、以前と違ってセパレート型のほかにも液晶一体型や、ノートでも同じような機能と同じような低価格帯の製品が増えて、市場が賑やかになってきています。そこでまずは、セパレート型スリムパソコンの存在意義の見直しから始まったのが大きいですね。
その結果、スリムパソコンの良さとして再認識したのが、高機能とか新しい機能、たとえば今回のFeliCaなどがそうですが、そうしたものをいち早く入れつつも、コストパフォーマンスがいい点。また拡張性がありながら、なおかつ省スペースでレイアウトフリーな点が大事だなと。初心者の方からパソコンに熟練された方まで、どなたでも使いやすく満足していただけるというのが、スリムセパレート型の良さではないかと、見直しました。
ではどういう物を作ろうかということでデザインの話になるのですが、熟練者でも満足できるスペックだけでなく、店頭や雑誌で比較されるときの第一印象として、デザイン面で初心者や女性の方に愛されるようなデザイン、どんなところにでも置けるようなものをと考えました。最近のパソコンではtype HXのような“シャープ”な感じや、他社の製品でも“メタリック”な印象の製品が多いのですが、type Hでは完全に逆の方向にふりました。初心者や女性の方がよりVAIOに愛着を持っていただいて、「次に買い換えるときもVAIO」というロイヤル・カスタマー(優良顧客)を増やしていきたい、というのがきっかけになっています。
[ASCII24] 中身やアプリケーションは別として、確かに見た目の印象は御社の今までのVAIOとは相当に違いますね。ふと思い出しましたが、昔あった“バイオノートQR”が似たようなイメージですね。丸みがあって色も白と黒でした。
[高橋] アプローチはQRと違いますが、新しい存在感や価値観を追求しようとした部分は重なるでしょうか。一口に新しいと言っても、飛びすぎてしまうとお客様の裾野を広げたいという点につながらないので、新しい存在感を出しつつも、優しく明るい感じというのを、多くの人に受け入れられる形状や質感はなんだろう? と考えて着地したのが、この形状と質感なのです。
[ASCII24] 店頭で同じようなカテゴリーの他社製品と並んでも、一目で異質な感じを受けますね。先ほど「セパレート型の存在意義を問い直すことから始めた」とありましたが、セパレート型はもう不要ではないか、という話もあったりしたのでしょうか。
[田吉] そういう議論はなんども繰り返されています。他社も含めて、セパレートからディスプレー一体型に移り変わっているというのが実情ですので、セパレート型を継続するかどうかという議論は、過去から何度もありました。
ただファミリー層や初級者層、女性層が安心感を寄せるのは、一体型ではなくて今までの3ピースのセパレートのものが主流だというデータもありますので、セパレート型を継続する意義は十分にあると考えています。
デザイン的にも、type HXは男性的な印象がありましたが、type Hではより広いユーザー層に受け入れられるようなデザインにしています。
[ASCII24] そうですね。
[田吉] type HXのひとつ前には“バイオHS”というシリーズがありまして、こちらは白を基調とした、どちらかといえばファミリー層向けでした。このtype HXで個人向け、男性寄りのデザインだったため、ファミリー層に受け入れられなかった部分があったと思います。そこでtype Hでは、角を丸くしたり、白を基調にした親しみやすいデザインに戻しました。
[ASCII24] 家電っぽいなという印象もありますね。空気清浄機とか。
[高橋] 白物家電とか。そうですね、今までのメカメカしい感じからは一歩抜けている。違う土俵にいる色味とデザインだとは思います。
[ASCII24] 御社の製品ですと、一体型のtype Vでもホワイトカラーのモデルがありますよね。やはり黒や銀系とはユーザー層が違う傾向があるのでしょうか?
[高橋] 商品コンセプトやターゲット層はtypeごとに異なりますので、それに応じたデザインやカラーの特徴付けをしています。type Vはカラーバリエーションを持つことで、より広くユーザーに受け入れられたいという狙いもありますので、実際にカラー別でのユーザー層の傾向は違っています。
[ASCII24] ディスプレーも今回は本体に合わせてのデザインですよね。
[高橋] はい。ディスプレーも同じ質感と、ラウンドフォルムという点を統一しています。後ろからでもきれいな形をしています。
[田吉] 表面の光沢感とかR(カーブの半径)のとりかた、あとはストラクチャーとして、電源を入れると両方ともVAIOロゴが光るといった、トータル的にデザインされています。
[ASCII24] 歴代のVAIOのデスクトップの中で、一番丸い部分の多い筐体では?
[田吉] Rの数字で言うと、一番丸いですね。
[ASCII24] そういった点が、見た目での安心感といったものにつながっているのでしょうか。
[田吉] そうですね……、色も含めての話だと思うのですが、Rが大きいと優しい感じというか、ソフトな感じがあるので、それはデザイナーが当初から狙っていたところです。コンパクトに見えると思うんです。これ実は両方(type Hとtype HX)とも幅は100mmなんです。でもHの方がコンパクト感というか、薄く見えるんじゃないかと。
[ASCII24] 厚さは同じなんですか。奥行きが広くなって、高さは低くなった。
[田吉] ただ印象的にはHの方が、コンパクトに見えます。角がないですからね。
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今回のお題であるtype Hと、セパレート型の前モデルtype HXを並べて(手前右がHX)。同じカテゴリーの製品ながら、その印象はまったく異なる |
| VAIO type H VGC-H70WB7の主なスペック |
| 製品名 |
VGC-H70WB7 |
| CPU |
HTテクノロジ Pentium 4 550J-3.40GHz |
| チップセット |
Intel 915GV Express |
| メモリ(最大) |
DDR2 SDRAM(PC2-4200) 512MB(最大1GB) |
| グラフィックス |
Intel 915GV内蔵グラフィックス機能 |
| HDD |
300GB |
| 光ディスクドライブ |
DVD+R DL(2層式DVD+R)対応DVD±RW(DVD+R DL 最大4倍速/DVD±R 最大16倍速/DVD-RW 最大6倍速/DVD+RW 最大8倍速/CD-R 最大40倍速/CD-RW 最大24倍速) |
| スロット |
PCカード(TypeII)×1、メモリースティック×1、CF TypeI/II×1、xDピクチャーカード×1、SDメモリーカード/MMC×1 |
| 通信 |
10/100BASE-TX×1、56kbps(V.90)モデム |
| I/O |
USB 2.0×5、IEEE 1394×2、DVI-D出力端子、映像入力×2など |
| サイズ(W×D×H、スタンドのぞく) |
100×415×308mm |
| 重量 |
約8.9kg |
| OS |
Windows XP Home Edition SP2 |
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側面に穴を開けるな! から始まる熱との戦い
[ASCII24] type Hは側面に吸気口の類がありませんよね。よくきちんと冷えるものですね。
[高橋] 解体の見所になるのが、本体の吸気口部分をスッキリ隠してしまっているという点ですね。
[田吉] 従来のスリム型ですと側面に吸気口があるのですが、側面のデザインにもこだわり、側面からは一切穴をなくすというコンセプトでデザインされています。初期段階からデザイナーのコンセプトとして、両側面の白い部分は聖域と言うことで、「穴とかは開けるな」というところからデザインが始まっています。このサイズの筐体でそれは、すごく大変なことです。我々の従来のモデルや他社のものもそうなのですが、だいたい側面に大きな開口部があって、そこからCPU冷却用のフレッシュなエアー(外気)を取り込んで冷やすというのが、主流だと思います。
[ASCII24] 最近では横に穴があっても「しょうがないよね」という感じですね。
[田吉] 我々もその方が設計しやすいのですが、デザイナーのこだわり、我々のこだわりもあって、他社と差別化するために「両側面であろうともデザインを大事にしよう」ということで始めました。
本体は黒と白の部分に大きく分かれていますが、黒い部分に吸排気口やLANケーブル、インジケーターやFeliCaポートなどを全部集めて、白い部分は“聖域”ということで、一切穴を開けなかったわけです。
[ASCII24] そうか。白い部分にはボタンもなにもないんですね。
[田吉] 正直、設計からはかなり反抗したのですが(笑)。デザイナーのこだわりもわかるし、我々も差別化を図りたいということで、こういう設計にチャレンジしました。実際これは相当苦しいですね。両側面に穴を開けずにPentium 4のハイスペックCPUを入れるというのは、相当な挑戦です。
[中村] 両脇に穴を開けなかった理由のひとつには、“レイアウトフリー”というどこにでも置けるマシンという提案している手前もありまして。本来吸気というのは、ユーザーにとって“考える必要のないもの”であり、そういう意味でもサイドに穴があると非常に目立つので、サイドには付けないという方針でやっていました。
放熱設計とデザインを実現するための機構設計が重い
[ASCII24] type HXと比べると、内部のチップセットやマザーボードががらりと変わったわけですが、ハードウェア面で新しいマシンはこうしていこうというコンセプトはございましたか。
[田吉] 今のデザインコンセプトとつながるのですが、パソコンなので基本的なプラットフォームやアーキテクチャーは決まってきますよね。そうなるとこういう商品ですから、放熱設計というのが大きな割合を占めます。デザインコンセプトとつながる“側面には一切穴を開けない”といったことが決まると、それをどう実現するかというのがメインの設計部分になります。やはり設計で一番大きいのは、放熱設計とデザインを実現するための機構設計というのが、一番重たいところではあります。
[ASCII24] ハードウェアをこのサイズの設計に収める際の、重点課題というのは何だったのでしょうか。
[田吉] 側面に穴を開けられないので、いかにしてCPUとか熱の出るものを冷やすかというのが、結構な重点課題でした。従来機では(対象に)近いところからフレッシュエアーを取り込んで冷やすことができた。今回はそれがやりやすいところに吸気穴を設けられなくて、フロントのわずかなところから吸い込んで、わずかなところから出すという設計ですので、いかに空気効率というか、空気の流れを止めないかが課題となっています。
あとで中を開けて見ていただきますが、レイアウトはBTXベースというか、空気の流れをフロントから直線的に取り込んで、CPUとチップセット、MPEGボードを冷やしてそのまま抜けていく。なるべく空気を曲げないというか、効率が落ちないような効率のいい設計をするということをベースに、レイアウトを組んでいます。type HXでは入ってきた風を90度曲げてという、結構複雑な流れになっているのですが、type Hのセットでは吸気から排気まで直線的で無駄がなく、内部のケースファンもない。
[ASCII24] ケースファンはないんですか! 知らなかった。
[田吉] ないんです。CPU専用のファンは中に入っています。あと電源用のファンもあります。その2つだけという意味です。機種によっては内部で空気を回すためのケースファンがありますが、type Hにはそれはない。CPUファンで全部をまかなえるような、そういう設計になっています。
[ASCII24] マザーボードは、ほぼ普通のBTXのレイアウトですか?
[田吉] レイアウト的にはそうです。ただCPUやチップセットがストレートに並んでいるだけで、厳密にはBTX規格とは違いますね。冷却システムがそれに似ているというだけです。
[ASCII24] 吸気はフロントの穴からだけですか?
[田吉] 基本的にはそうです。そこが非常に厳しいんですね。「フロントは穴開けてもいいよ」と簡単にデザイナーは言うのですが、見てのとおり光ディスクドライブのドアがあったり、メモリーカードのドアがあったりすると、残る面積は少ないじゃないですか。その中でいかに吸気を取るかというのは厳しくて、熱設計的には苦しんで揉めました。実際にはフロントだけでなく、細かい工夫として下からも吸って中に入れるとか、細かいところからも一生懸命風を集め、かき集めてかき集めて冷やすと。
たとえば吸気が少なくても、ドライヤーみたいにブンブンとファンを高速で回せば冷えるんです。でも家庭で使っていくうえでは、“静かなセット”というのが求められるじゃないですか。ファンを(技術的には)回せても回せないというジレンマもあり、騒音と熱のマージンというぎりぎりのバランスのところで吸気の幅や穴が決まり、良いバランスでできている製品だと思います。
[ASCII24] ケースファンがないとは驚きました。上のこの穴からも吸っているんですか?
[中村] いちおうサブ的に吸ってはいます。
[内山] 上側に電源ユニットがあるんですが、この部分にわずかに穴がありまして、電源に対する吸排気を一部助ける形になっています。でもメインではないですね。
[ASCII24] 設計は大変でしたか?
[内山] 大変でした(笑)
[田吉] 当初は動くには動くのですが、すごくうるさかったんです。ドライヤーのような音で(笑)。10mくらい離れていてもすごい音が聞こえるので、仕事場でもクレームが出るくらいうるさくて。こりゃまずいなということで、相当に苦しんだものです。結果的には商品化できましたし、騒音レベル的にはtype HXよりも静かになっています。
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type Hの解体を開始。まずスタンド部分を外すと、メモリースロットが見える。メモリー増設程度なら、ネジ回しは不要だ |
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続いてネジ止めされたバックパネルのカバーを外す |
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続いてサイドパネルを外すと、ようやく内部が見える |
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パネル類を外した状態のtype H。左から本体、サイドパネル、バックパネル、スタンド |
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デザイン、コスト、騒音をいいところにまとめた
[ASCII24] 確かに、マシンの側でこうしてインタビューしていても、全然動作音は聞こえませんね。
[田吉] 起動時点から音が大きくならないようにこだわって、起動の時に音を抑えるような、回路を加えているんです。
[ASCII24] 回路というのは?
[田吉] 詳しくはお話できませんが、低回転で騒音を抑える仕組みを取り入れています。
[ASCII24] 大抵のパソコンは、電源投入直後はフルパワーで「ブオ〜ン」といった音を立てて回りますよね。
[田吉] ICが持っている機能にそのまま頼ると、そういうことになります。それを別の制御で抑えるような仕組みをとっています。
[ASCII24] type HXよりも静かになった、ターニングポイントみたいな要素はありますか。これを使って画期的に変わった、といったような。
[田吉] 難しいですね。要素はいっぱいあるんですよ、CPUのヒートシンクもそうだし、それを冷やすためのファンもそうだし。吸気を排気をどうするかという、すべてのバランスになるんです。確かにヒートシンクはサイズ的に大きめのものになっているし、ファンにしても80mm角で40mm厚の相当に分厚いもので、ゆっくり回して風圧が確保できるものを採用しています。アイドリング域ではあまり差がありませんが、負荷をかけたときに(騒音に)差が出るような設計になっていて、たとえばDVDを焼くような高負荷の時に、より静かになっています。
サイズを縮小して吸気も少ないけれど、騒音を下げていく。そういうバランスですよね。どれかひとつを実現するのは簡単なんですよ。デザインはいいけどうるさいとか、うるさくないけど穴が空いているというのはできるんですが、それを全部満たすと言うところが難しいんです。あるいはコストをかければ、もっと簡単かもしれない。水冷とかもありますから。でもお客様が買いやすい価格に落とすためには使えない、ということがありますので。デザイン、コスト、騒音と、それぞれの要素をいいところにまとめているのが、今のtype Hだと我々は思っています。
[ASCII24] なるほど。冷却以外になにか苦労された点はありますか。
[内山] 基本的にはスリムとはいえデスクトップなので、基本性能は落としたくない。たとえばCDやDVDを焼いたりという処理はノートパソコンでもできますが、スリムにするためにノート用のデバイスを使ってしまうと、スピードが遅くなるといったことがありますので、そこは妥協したくない。その分大きくなったり面積は食うので、吸気口が少なくなったりといった部分に関わってくるのですが、とにかく基本性能は全部押さえたいというところがメインですね。
[ASCII24] type Hを買われるようなお客様というのは、2スピンドルのスタンダードなノートパソコン、たとえば御社ですと“type A”の“ASシリーズ”になりますが、ノートを選ぶ方よりはスペックに対する要求が高いということでしょうか。
[高橋] ノートを選ぶ方は、すでにパソコンを何年か使われていたりとか、会社ではデスクトップを使いこなしていて、では家のパソコンはどうしようとか、ある程度パソコンを使った経験のある方が買われるのかな、と考えています。一方でスリム型デスクトップのこのカテゴリーは、まだパソコンを使って間もない方や、家族で使われる方の割合がほかよりも多いと思います。
そうすると先に言った安心感にもつながるのですが、スペックもある程度、例えば初心者の方でもわかりやすいのはHDDやCPU、メモリーなど、もうちょっとあったほうがいいかなという気持ちへの安心感で買われているのかなと。
何年か使われた方だと「自分はこのくらいにしか使わないから、これでいい」という具合に、自分の使い方やライフスタイル、パソコンを置きたい使いたい所に応じて商品を選択されるかと思うのです。
密度が高く細部まで気を使った設計が明らかに!
ここで会話を続けつつtype H本体の分解が行なわれる。スタンドを取り除き、バックとサイドのパネルを外すと内部があらわになった。
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サイドパネルと側面の補強板を外した状態。右側の黒いカバの下に吸気用の大口径ファンがある。銀色の大型ヒートシンクの下にPentium 4がある。左上は電源ユニットで、ここにもファンがある |
[中村] これが先に説明したCPU用のファン。結構分厚いものですね。これがフロントから吸ったエアをCPUのヒートシンクに当てて、抜けたエアをチップセットに当てて、かつメモリーやMPEGボードを冷やす。直線的に入って出ていくという熱設計になっています。
[ASCII24] ドライブ類は特に冷やしてはいないのですね。
[中村] そうです。電源ファンがここにありますので、風の流れが一部ここにもできますから、それで賄っています。
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パネルに覆われた筐体のフロント側。金属フレームが部分的に黒く塗られている。その理由は……? |
[ASCII24] フロント側のフレームの一部が黒く塗ってありますね? これはなぜでしょう
[中村] ここを黒く塗っているのは、フロントからエアを吸っている関係上、吸気口から板金が見えてしまうんです。塗っていないと素材の色でモロに板金が見えてしまう。ここを黒く塗ることで、黒の中に黒ならほとんどわからないくらいになりますので、そういう理由で黒塗装をしています。
[ASCII24] なるほど! これがヒートシンクですね。
[中村] オリジナルで、熱のスペックに合わせたものを最適化を図って導入しています。
[田吉] ヒートシンクは大きいですが、フィンにはアルミを使ってコスト的にはセーブしています。
[ASCII24] ファンの回転数も落として使っているのですか。
[田吉] 相当に落としていますね。1000以下、900かな。
[内村] 毎分900回転ですね。実力は6000回転くらい回るものを、低回転に落として使っています。
[ASCII24] これがFeliCaのリーダー・ライターですか。
[中村] 意外と配置に苦労しましたね。アンテナですから、まわりに金属物質があってはいけないという制限があるので、樹脂のフォルダーを作ったりとか。
[ASCII24] ノートの“VAIO type T”では、キーボードの手前、パームレストの右側に内蔵されていますよね。type Hで本体の上に搭載した理由は?
[田吉] ノートと同じような付け方もできるとは思うのですが、FeliCaの使い方として、置きっぱなしでキー入力をするようなこともあるんですね。
[ASCII24] ああ、なるほど。
[田吉] ですので、パームレスト上に置いてしまうと使いづらいことがあります。ノートの場合は他に場所がないということで、パームレストになったのでしょうが、デスクトップではより使いやすい所ということで、上を選びました。
[ASCII24] 確かに。ちょっとかざすだけでいいという使い方ばかりではありませんね。
[田吉] FeliCa携帯電話機もありますので、平面部が必要なんです。このスリムトップモデルというのは、ちょうどこの平面が水平になっているわけです。アクセス性にしても、天面の前側であれば悪くないだろうと判断しました。
BTXはスリムタワーには厳しい?
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分解されたtype Hの全部品。手前にネジがあるが、総数は非常に少ない |
[ASCII24] ネジは……少ないですねえ。
[中村] そうですね。どの機種でもそうなのですが、メカの設計ではネジを少なくするというのは、課題として与えられているような面があります。
[ASCII24] しかしこれは……、ちょっと素人ではバラせませんね。
[中村] (分解すると)3回に1回はネジが余りますね(笑)。それでもまだ簡単な方だと思いますよ。type Xなどと比べれば、半分程度の時間でここまでバラせているんじゃないかな。
[ASCII24] 昔はメーカー製パソコンも自分たちで分解していたのですが、今のはとても怖くてできませんね(笑)。現在ではやはり、コンピューター上でボードやパーツのレイアウトからエアフローまでをシミュレーションして、このとおりに作れば大丈夫なはず、というところまで検証してから製造に入るわけですか?
[中村] そうですね。
[内山] “はず”まではいきますね(笑)。
[田吉] 今回の場合、熱の分布と風の流れがどうなるかまではシミュレーションしています。騒音までは事前には測れないないのですが。
[中村] 実際には排気が苦しいんです。端子がいっぱいあるから。
[ASCII24] そうか。カードが2枚ささっていて、端子もあるから背面に余裕がないんだ。
[中村] BTXというのはもっと大きな筐体では効果的なのですが、こういう端子が並ぶようなコンパクトな筐体というのは、苦しいんです。
[内山] 幅を10cmに抑えるには(幅を)増やせないので、その中でいかに後ろの開口部を増やすかというのは、苦労したところですね。
[中村] ケースファンを付けて強制排気のようなことをできれば助かるのですが。
[ASCII24] 設計段階では、ケースファンを付けた場合というのも検討されているのですか。
[中村] 考えてはいました。ただ実行段階までは移しませんでしたね。
type H 内部パーツ総覧 その1
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本体左側ケース |
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本体右側ケース |
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本体前面パネル |
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前面筐体フレーム(前方から見た状態) |
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前面筐体フレーム(後方から見た状態)。左上はメモリーカードスロットなどの基板。下は冷却ファン |
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type H 内部パーツ総覧 その2
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本体背面パネル |
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本体上面パネル |
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本体スタンド部 |
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内部補強用フレーム |
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type Hマザーボード。右側が前方側である。右からCPU、チップセットMCH(中央・銀色ヒートシンク下)、チップセットICH(左・黒色ヒートシンク下)。配置はBTXと同様だが、ボード自体のレイアウトは異なる。ICHの上にはライザーカード接続用のPCI Expressスロットがある。その上に光ディスクドライブ用パラレルATAコネクタと、HDD用シリアルATAコネクタがある。ボード右上部分はCFカードスロット |
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(左から)冷却ファン用カバー、CPUヒートシンク |
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(左から)電源ユニット(右にファン)、DVDスーパーマルチドライブとHDDを収めたユニット |
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内蔵カードなど。(左から)DVI出力カード、MPEG-2エンコーダー搭載TVチューナーカード、前面用USBコネクタ、(下)シリアルATAとパラレルATAケーブル、2枚めのTVチューナーカード、USBコネクタ用内部ケーブル |
終わりなき熱との戦い
[ASCII24] 最近ではCPUのTDP(熱設計時消費電力)も100Wがザラになってきましたし、Pentium Dに至っては130Wと、だんだん上がってないか? という状況です。CPUに限らず、チップセットやGPUもかなりの熱を出す。発熱量の大きなデバイスは増える一方で、減ることはないですよね。
そんな状況がある一方で、こういう小さい筐体で、リビングや個室に置いても静かな製品を作ろうということになると、筐体設計は相当に難しくなっていくと思います。熱設計におけるポイントというのはどういうところでしょうか。
[中村] 先ほど話したことに尽きると思います。空気の流れのロスをいかに減らすか、流れを曲げずにまっすぐ、いかに効率よく流すかというところで、熱設計を助ける。それが重要ですね。今後となりますと、ケースファンとか強制排気とか、もっといろいろな工夫はできるのですが、その辺が勝負ですかね。
[ASCII24] ちなみにこういうクラスのデスクトップパソコンで、CPUをPentium Mにするというのはアリなんでしょうか? インテルも最近はそういう方向を意識したコメントをするようになっていますが。
[田吉] 商品としては十分に作れます。一体型でそういう作りをしているメーカーさんもありますし。あとはコスト面とか性能面とか、どこを目指すかで決まってくると思います。我々は今回、安価なデスクトップ用CPUを使ってお客様のニーズを満たせる物ができれば、ノートタイプに落とし込むこともないかと考えました。この先もしも本当に、デスクトップ用を使うと騒音が酷くなってなんてことになれば、ノート用や違うデバイスを使ったソリューションがあるかもしれないですね。
[ASCII24] 現状ではやはり、価格が高い?
[田吉] 価格面もそうですし、性能面も……一概には言えませんね。(ノート用デバイスも)ひとつの選択肢だとは思いますよ。
[ASCII24] 今回もうひとつお聞きしたかったのが、type Hで筐体を大きく変えられたのは、プラットフォームが変わったことで熱設計のハードルもある意味上がっているでしょうし、今後出てくる新しいコンポーネントに、新しい筐体で対応するという面もあるだろうと。一世代で終わるわけではありませんものね。
だいたいどれくらい先まで視野に入れて、筐体設計をするものなのでしょう。何年くらいは使えるという見込みで作られているのでしょうか。一度筐体を作ってしまうと、見た目を変えずに内部をがらりと変えるのは難しいですよね。
[中村] このモデルを何期まで、というのははっきり言えませんが、過去のモデルを見ると、3〜5期ほどは同じシャーシを使って作り続けますよね。
[ASCII24] 期、というのは年に何回?
[中村] 3回ですね(編注:新春モデル、夏モデル、秋冬モデルの3回と思われる)。短いものでは3期、長いものでは5期というのが過去の実績です。
[ASCII24] それでも5期で2年未満ですね。1筐体でせいぜい2年ですか。
[中村] 今おっしゃられたように、(2年の間に)新しいパーツやプラットフォームが出てきますよね。なのでそういうものも視野に入れたなかで、この筐体設計はスタートしています。どのようなタイミングでどのようなプロセッサーをというのは、他社動向を見ながら導入していくことになると思います。
[ASCII24] ちなみにこのマシンの開発は、いつ頃から始められたのですか?
[中村] 開発ですか……、2004年の秋頃ですかね、9月くらい。
[ASCII24] そうすると登場まで8〜9ヵ月くらいですか。
[中村] パソコンはサイクルが早いですからね、企画が起きてから商品を出すまでが。今までにほかのAV製品も手がけてきまして、ほかのカテゴリーですと試作回数なども多いのですが、パソコンは「作るぞ」と決めたら数ヵ月で量産まで持っていってしまう。このスピード感はパソコンならではだと思いますね。
[ASCII24] この製品も現在のコンポーネントだけでなく、ある程度将来登場するであろうコンポーネントにも対応できるよう、視野に入れて設計されていると思いますが、将来への対応を見込んだ筐体設計を行なう際の重要なポイントはなんでしょうか。
[田吉] 将来的にも使えるというのは、熱設計などが大きいと思うのですが、2〜3シーズン先にはどのようなモノを入れなければいけないのか、という読みですよね。そこを読み違えなければ効率のいい設計になるし、読み違えればオーバースペックなものになってしまうか、長くは使えないものになるかもしれない。その読みを見誤らなければ、効率のいい設計ができると思うのですけどね。
[ASCII24] しかしインテルCPUの場合ですと、去年前半くらいには「家庭のデスクトップ向けCPUのTDPは上限120Wだ」といった話をしていたかと思うのですが、Pentium Dでは平気で「130Wだ」と言うようになり、おいおい上がってないかい? という状況ですよね。
[田吉] これについても3〜4期先を見据えて設計をしていますので、「3〜4期先にはこういうスペックだろう」と見込んで、電力なども規定してやっています。ただ言われたように、外れるというか変わることがあるので、そういう時には結構ジタバタしますね。3〜4期先になりますと、言うことが変わったなんてこともあるので、例えばこれなら「サイドに穴が空いちゃった」なんてことがないように祈っています(笑)。
さまざまな苦闘を経て誕生したtype H。一見地味なセパレート型低価格デスクトップパソコンと言えども、その完成までには使いやすさを損なわないための様々な工夫を凝らすべく、緻密な計算と設計が行なわれているのがわかった。安価な価格帯の製品でも、使い勝手のためには手を抜かないソニーらしさが込められているのがtype Hというパソコンなのだ。
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